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昼休が終わりそうな時間であったが、Tさんはまだ僕達の近くにいた。
いつもの軽トラックの後ろに1台の車が止まった。
「社長、やっと来てくれたの。」と、Tさんが声をかけた。
「Eちゃんが何匹か面倒見てくれそうじゃないか、良かったなあ。」と、お父さんは少し良い方向に向かい始めた里親探し問題を慰めていた。
「ええ、そうなんです。でもまだまだ居ますから。」と、Tさんは僕達の方へお父さんの目を誘い「この子達なんです」と僕達をお父さんに見せた。
そして、「ええっ、どれどれ」とお父さんが僕達に近づいて来た。
「おお、おお、お前達か、本当だ、まだ小さいねえ。」と、腰をかがめながらゲージから2メートル程のところにお父さんが近づいて来た。
僕達ははここの環境にもすっかり慣れ、ゲージの中のボロ毛布の上でジャレ合うことも多くなっていた。
ちょっと前までその中ではしゃいでいた僕は遊び疲れ、Tさんが傍にいることで、たまたま開いていたゲージから外へ出ていた。
そこへ近づいて来た、優しそうなメガネの男の人がいたのだ。
ここ2、3日の間に慣れ親しんできた、少し土の香りのする作業着姿でなく、セーターの上に赤いジャンバーを羽織った壮年のお父さんだ。
軒下の日が差し込む所にしゃがみ両手を低く前に出し、僕を手招きしている。
兄弟の中で一番先に、この来訪者に気がついた僕は、いきなり駆け寄る分けでもなく、その状況をうかがうわけでもなく、それでも確実にヒョコヒョコと近づき、低く差し出された両手の中にすんなり収まった。
僕とお父さんの運命的な出逢いは、正にこの時だったのだ。
「おおっ、来たか。お前が一番に来たのか。そうかそうか、よしよし」と、僕を抱き上げた。
抱き上げるとお父さんは僕を胸元に引き寄せ片手で抱きかかえ、もう一方の手で頭から背中の辺りを優しく撫でてくれた。
触れた時少しひんやりする作業服と違い、お父さんの胸のセーターのむくもりはとても心地よかった。
嬉しくなり僕は直ぐ眼の上のお父さんの首から顎の辺りをペロペロ舐め始めた。
「おおっ、どうした嬉しいのか、そうかそうか」と、僕の方に眼を落とす。
顔が下に向けられたので、僕は更にお父さんの口の周りから鼻までペロペロ舐め続けた。
暫くお父さんはさせるがままにしてくれた。
「おいおい、そんなに気に入ったか、そうかよしよし」と、ちょっと僕をたしなめながら、胸元にお腹を上に片手で抱き、
「おーうっ、お前は男の子か、そうか」と、僕の観察を始めた。
「あれっ、こいつ白い靴下はいてるね。へえーっ、可愛い顔してるねえ」と、傍にいるTさんにも話し掛けた。
後で分かった事だか、この足の半分位から毛並みが白くなっているのは雑種(MIX)の証らしい。
Tさんは「いい子達でしょう」と、自慢気に答えた。
二人の会話か進み始めた頃には、ゲージで遊んでいた兄弟達も集まり、人懐っこく甘え始めた。
お父さんは僕を胸元に片手で抱きかかえたまま、もう一方の手で兄弟達をあやしていた。
「Eちゃんが決めそうなのはどの子なの」と、お父さんが聞くと、
「何か女の子がいいらしく、この子とこの子です。」と、Tさんは妹達を抱き寄せながら答えた。
「へえーっ、あっそう、なんだお前はまだ行く先が無いんだ。」と、抱きかかえたままの僕に眼を落としたお父さんは、今度は両手で僕を抱き上げ改めて観察をし始めた。
そして、僕を優しく下に降ろし、今度は弟を引き寄せ「お前は少し小さいけど、元気そうだなあ」とか、次にはお兄ちゃんを引き寄せ「お前は少し大きくてガッシリしているなあ」と、男3兄弟の比較をし始めた。
その様子にTさんは「ねえ、社長お願いしますよ、可愛いでしょう」と、先輩への甘え口調で話しかけた。
「そうねえ、こうやって見ちゃうとねえ。だって、後2、3日で連れていかれるんだろう」と、お父さんの気持ちは確かに動いていた。
「ようしっ、じゃっ1匹面倒みるか。でもカミさんがどう言うか分からないけど、とりあえず連れていってみるよ」と、僕達3兄弟に目を落としたままTさんに告げた。
Tさんは間髪入れず「どの子にします。」と、僕達男3兄弟を囲むように差し出した。
お父さんは改めて見るまでも無く、既に決ってたかのように僕を抱き上げ「最初に寄ってきたお前かな、靴下も可愛いし、こう言うのも縁かも知れないしなあ」と、又胸元に引き寄せてくれた。
又セーターのぬくもりが心地よく伝わってきた。とてもホッと出来るやさしい揺り篭のような胸元であった。